海底ケーブルとインターネットの実体 — 深掘り調査レポート
- 調査日:2026年10月27日(日本時間)
- 言語:日本語
- 方法:総務省、米議会調査局(CRS)、NEC、KDDI等の一次・公的資料を優先し、ITU、国際ケーブル保護委員会(ICPC)、TeleGeographyを引用する報道・業界資料で補完した。数値が資料によって異なる場合は、どちらか一方を「正解」として隠さず、定義・時点の違いとして明記した。
- 表記:容量の Tbps は「設計容量(design capacity)」を指す場合が多い。実際に点灯・使用されている容量(lit / used capacity)とは別である。特に断らない限り、ケーブル名に添えた Tbps は発表時点の設計容量である。
結論(先に要点)
- 「99%」は大筋で正しいが、意味を限定しないと誤解を招く。 ITUは「海底ケーブルは大陸間データトラフィックの99%超を運ぶ」とし、日本の総務省資料も「日本の国際通信の約99%が海底ケーブル経由」とする。一方、米CRSは同じ報告書の中で「大陸間インターネット・トラフィックの約95%」と「大洋横断デジタル通信(音声・データ・インターネット)の99%」を併記している。つまり95%と99%は矛盾というより、何を分母にするか(インターネットだけか、音声を含むデジタル通信全体か/大陸間か、大洋横断か)の違いである。国内通信、国内で完結するCDNキャッシュ配信まで含めた「全インターネット通信の99%」ではない。
- 衛星は代替ではなく補完である。 総務省資料はケーブル1本の伝送容量を衛星1機の約160倍、日米間の伝搬速度を約5倍とする。衛星は離島・船舶・航空・災害時の限定バックアップには不可欠だが、国全体の動画・クラウド・AIデータセンター間通信を丸ごと担う容量も遅延特性もない。
- ケーブル自体は驚くほど細い。 深海用は直径約17〜20mm(庭のホース程度)、浅海用は鋼線鎧装で50mm前後〜それ以上になる。中身は髪の毛程度の光ファイバー、銅管(給電)、鋼線、ポリエチレン等。設計寿命は一般に25年超で、最新世代は1システムで200〜300Tbps級、実験・次期システムではさらに上を狙う。
- 日本は「房総(千葉)+志摩(三重)」への集中が最大の弱点である。 千倉・丸山/南房総、志摩が太平洋横断とアジア域内の結節点で、ほかに北茨城・阿字ヶ浦、高萩、沖縄、福岡・北九州等がある。総務省の2026年報告書も陸揚地点の房総・志摩集中を課題の筆頭に挙げ、地方分散・多ルート化を打ち出している。
- 1本切れても通常は気づかない。複数本・チョークポイント・単一ケーブル依存の島では大障害になる。 世界で年150〜200件前後の障害が起き、その約70〜80%は漁業と錨による偶発損傷とされる(ICPC)。冗長経路への自動迂回で吸収されるのが通常だが、2006年台湾沖地震(9本・21障害、復旧49日)、2011年東日本大震災(千葉・茨城沖20カ所以上、修理完了まで150日超)、2022年トンガ噴火(38日間ほぼ孤立)のように、同時多発や依存度が高い場合は例外になる。
- 地政学では「事実」と「疑い」を分けることが必須である。 バルト海や台湾・馬祖、紅海で実際にケーブルが切れたことは事実だが、Yi Peng 3事件ではスウェーデン当局が「故意の確証なし」、Eagle S事件ではフィンランドの裁判所が故意の立証不足で訴えを退けた(2025年10月)など、損傷=破壊工作の証明ではない事例が続く。対照的に、米国FCCによる中国製技術・中国企業の排除、PLCNの香港接続不認可、SEA-ME-WE 6での供給者交代といった規制・調達面の米中対立は文書で確認できる事実である。
- 所有の主役は通信会社コンソーシアムから巨大テックへ移った。ただし「造る会社」は別である。 TeleGeography集計ではコンテンツ事業者の使用容量シェアは2012年以前の10%未満から2020年に66%へ跳ね上がった。近年の要約ではハイパースケーラー4社(Google、Meta、Microsoft、Amazon)で国際帯域使用の約71〜75%とされる。だが製造・敷設は今もSubCom(米)、Alcatel Submarine Networks=ASN(仏)、NEC(日)の3社+HMN Tech(中)がほぼ担う寡占市場である。
1. 国際通信の99%前後を海底ケーブルが担うのか — 定義と衛星との違い
1-1. 数字の出典をたどると、3つの言い方が混在している
| 出典 | 言い方 | 分母(何と何を比べたか) |
|---|---|---|
| ITU(国際電気通信連合)/ITU-ICPC助言機関 | 「99%超」 | 大陸間(intercontinental)データトラフィック。ITU主催のWSISフォーラム2026成果文書も「Submarine cables carry over 99 per cent of intercontinental data traffic」と明記する ITU/WSIS成果文書 |
| 米議会調査局 CRS R47237 | 「約95%」と「99%」を併記 | 前者は 大陸間のグローバル・インターネット・トラフィック、後者は 大洋横断(transoceanic)デジタル通信=音声・データ・インターネット。同一報告書内で定義を分けて書いている点が重要である CRS(verified live) |
| CSIS(2024年報告、二次引用で確認) | 「95%超」 | 国際データ全体。CRS系の95%ラインと近い |
| 総務省(日本) | 「約99%」 | 日本の国際通信。総務省の地域社会DXナビは「日本の国際通信の約99%が海底ケーブルを経由しています」とし、出典として総務省資料を引く 総務省・地域社会DXナビ(verified live)。KDDIも「日本の国際通信において、その約99%を支えているのが海底ケーブル」と同趣旨を述べる KDDI Spark Journal(verified live) |
| NEC | 「99%」 | 「国際データトラフィック」の99%を支えると自社紹介で記載 NEC(verified live)。業界側の通説としての使用である |
読み解き:
- この数字は、誰かが世界中のパケットを実測して数えた「国勢調査」ではない。各機関・業界団体による推計であり、だからこそ95〜99%の幅が出る。幅の主因は、(a)インターネットだけか音声等を含むか、(b)大陸間/大洋横断/一国の国際通信か、(c)推計年、である。
- したがって正確な言い方は「大陸をまたぐ通信については、海底ケーブルが95〜99%を占めると主要機関が推計している。日本の国際通信については約99%と総務省・事業者が説明している」となる。
- 逆に言ってはいけないこと:国内通信まで含めた「インターネット全体の99%が海底ケーブル」ではない。国内動画配信の多くは国内データセンター/CDNキャッシュから届き、海を渡らない。スマホの「無線」区間は最後の数百m〜数kmだけで、その先の基幹網はほぼ光ファイバーである、という点も混同されやすい。
1-2. 衛星通信の実際の役割
- 容量差: 総務省資料では「伝送容量はケーブル1本で衛星1機の約160倍、速度は日米間で約5倍」総務省・地域社会DXナビ。これは特定の比較条件での政府資料の数字であり、衛星側も低軌道(LEO)コンステレーションで改善しているため「永遠に160倍」という物理定数ではない。ただし桁感として、1システム数百Tbps級のケーブルに対し、衛星は桁違いに小さいという構造は変わっていない。ITUも衛星を「バックアップとケーブルのない場所への到達手段であり、ファイバーの総容量・低遅延・経済性を代替できない」と位置づける要約が複数ある。衛星の位置づけを整理した報道として Gulf News / ITU引用 がある。
- 遅延: 静止衛星(高度約36,000km)は往復の伝搬だけでも目に見える遅延になる。LEOは遅延を大幅に下げるが、それでも大容量のデータセンター間同期、金融取引、海を渡るクラウド通信の主経路にはなっていない。
- 実際に衛星が主役になる場面: 離島・へき地、船舶・航空機、災害で地上網が壊れた直後の最低限の連絡、トンガ噴火時(後述)のような緊急連絡、そして軍・政府の独立系通信。トンガでは衛星で「一部の接続」は戻ったが、通常の容量・料金・性能は回復しなかったとCloudflare・現地報道が一致して伝える(第4節)。
- 割合の食い違いに注意: 衛星のシェアについて「5%未満」「0.5%程度」「1%未満」など資料により幅がある。これはケーブル側の95%/99%問題の裏返しであり、正確な1つのパーセントに固執せず「1〜5%以下、 bulk traffic ではない」と幅で理解するのが安全である。
2. 海底ケーブル1本の構造・太さ・容量・寿命 — 中継器と電力供給
2-1. 断面構造
CRSが図示する典型的な断面は、外側から:
- ポリエチレン(外被)
- マイラーテープ
- 鋼線(stranded steel wires、引張・圧力への強度)
- アルミニウム防水層
- ポリカーボネート
- 銅またはアルミニウム管(光ファイバーを収め、かつ中継器への給電導体を兼ねる)
- 石油ゼリー(充填・防水)
- 光ファイバー(中心)
出典:CRS R47237、Figure 3(verified live)
中心の光ファイバー自体は髪の毛程度(コーティング後で250μm=0.25mmというNEC/OCC系の発表もある。下記)。「太いケーブル」の太さのほとんどは、データを運ぶガラスではなく、守るための鎧と、電気を運ぶ銅である。
2-2. 太さは水深で変わる
- 深海用(lightweight):直径約17mm。 NEC子会社OCCのSC500系LWケーブルについて「外径17mm、水深8,000mに耐え、最大32ファイバー収容」とメーカー系発表にある NEC/OCC/住友電工 マルチコア試験発表(転載)。
- 浅海用:直径約50mm以上になることもある。 浅い海は水圧は低いが、底引き網、錨、岩、船舶座礁のリスクが高いため、鋼線鎧装を二重・三重にする。総務省も「ケーブル本体は水深が浅くなるほど、損傷しないよう太く、頑丈にします」と説明する 総務省・地域社会DXナビ。
- 全長では、世界の海底ケーブル総延長は資料により 約120万km(KDDI)/約150万km(総務省資料、地球37周)/それ以上 と幅がある KDDI、総務省。これは国内ケーブルを含むか、計画中を含むか、集計年(TeleGeography地図は2025年版で597システム・1,712陸揚げ、2026年版として694システム・1,893陸揚げと引用される例がある)の違いである TeleGeography 2025地図の要約(InterGlobix)。「本数・総延長」は年次で増える数字として、出典と年をセットで読む必要がある。
2-3. 中継器(リピーター)と電力供給 — 海底に「電源」はない
- 光信号は数十km進むと減衰する。そのため約40〜100kmごとに中継器を入れる。総務省資料は「約40~100kmごと」、日米級の長距離では1システムに100台を超えることもあると他資料も述べる 総務省・地域社会DXナビ。
- 現代の中継器の中身は、電気信号に戻して再生するのではなく、**EDFA(エルビウム添加ファイバー増幅器)**で光のまま増幅する。CRSも「repeaters boost the signal with optical amplifiers using semiconductor laser pumps」と説明する CRS。
- 給電の仕組みが実体の核心である。 陸揚局にある給電装置(PFE: Power Feed Equipment)が、ケーブル中心の銅導体に定電流の直流を流し、全中継器を直列につないで駆動する。両端から給電し、一端が正、他端が負で、中間付近が仮想的なアース点になる。CRSは陸揚局設備として「PFE that provides a constant direct electrical current through the cable to power repeaters」と明記する CRS。
- 電圧の桁感(システムにより大きく異なる二次資料値):3,000〜15,000V DC、電流は最大約1.1〜1.65A、投入電力は最大約16.5kW級という整理が英語版Wikipedia等にある。これは全システム共通の定格ではなく、「数千〜1万V超の高電圧・低電流で海底まで電気を届ける」という設計思想を示す参考値として扱うべきである。
- つまり太平洋の真ん中の中継器は、電池でも海中発電でもなく、千葉やオレゴンの陸揚局から、ケーブルそのものを電線にして送られてくる電気で数十年動き続ける。 片端の給電が止まっても、もう片端から全区間給電できるよう冗長化されるのが一般的である(single-end feed / double-end feed)。
- 短距離(島嶼間など数百km以下)では中継器なし(unrepeatered)のシステムもあり、その場合は陸側の増幅だけで届かせる。
2-4. 容量の桁感 — 世代比較
容量は「ファイバーペア数 × 1ペアあたり容量」で決まる。波長多重(WDM/DWDM)で1本のファイバーに多数の波長を載せ、各波長100Gbps〜400Gbps超で運ぶ。近年はファイバーペア自体を増やす空間分割多重(SDM)が主流になった。
| システム(例) | 運用開始 | 距離 | ファイバーペア | 設計容量 |
|---|---|---|---|---|
| TAT-8(初の大西洋横断光ケーブル) | 1988年 | — | 2ペア+予備 | 電話約4万回線相当(CRS) |
| FASTER(日米) | 2016年 | 約9,000km | 6 | 60 Tbps(100Gbps×100波長×6ペア)NEC |
| JUPITER(日米比) | 2020年 | 約14,000km | — | 60 Tbps超(発表資料により表記差あり。下記注) |
| JGA(日本―グアム―豪州) | 2020年 | 約9,500km | 2+2 | 36 Tbps超(南36/北24と分けて報じる資料もある) |
| ADC(アジア域内) | 2024年運用開始 | 約9,400km | 複数(8ペアと報じる資料あり) | 140 Tbps超 Singtel/NEC発表 |
| MIST | — | 約8,100km(シンガポール―インド等) | — | 216 Tbps超 NEC |
| Topaz(日本―カナダ、Google) | 2024年 | — | 16 | 240 Tbps |
| Apricot(日本―シンガポール域内) | 一部運用・延伸中 | 約12,000km | 12 | 当初約211 Tbps、約290 Tbpsへ増強と報じられる |
| Candle(Meta主導、2028年予定) | 計画 | 約8,000km | 24 | 570 Tbpsと発表(Meta発表を伝えるCNA経由資料) |
注:JUPITERについては「400Gbps対応」を強調する当時のNTT Com系報道と、「設計容量60Tbps超」とする資料が併存する。前者は1波長あたりの伝送技術の説明、後者はシステム総容量であり、同じ数字を比べているのではない。同様にApricotの211/290 Tbps差は初期設計と増強後の違いである。この種の「食い違い」は誤報ではなく、発表時点と定義の違いであることが多い。
出典(JUPITER/Topaz/JGA/Apricot): JUPITER建設合意の報道(NTT Com発表の転載)、 Topaz(Submarine Networks)、 JGA建設開始、 Apricot(Submarine Networks)
桁感のまとめ: 2010年代半ばの太平洋横断で60 Tbps級だったものが、2020年代の新世代では200〜300 Tbps級が標準になり、計画段階では500 Tbps超も出てきた。つまり「最新1本」は、少し前の世代の4〜5本分に相当する。逆に言えば、最新鋭1本への依存度も上がっている。
2-5. 寿命
- 設計寿命は25年超が前提。 NECは「systems are designed to operate for over 25 years at depths of up to 8,000m」と明記する NEC(verified live)。
- 25年は「25年で物理的に腐って切れる」という意味ではない。光学部品・中継器の信頼性設計、保守部品、端局装置の更新、そして何より新世代の容量効率に負けて経済的に引退するという意味合いが強い。実際には20年以上現役の APCN-2 等の例もあり、償却済みの旧ケーブルが安価なバックアップとして残ることもある。
- 海底部分(wet plant)は交換が極めて困難なため最初から25年無故障級の信頼性で造り、陸上端局(dry plant/SLTE)は技術進歩に合わせて更新して容量を上げる、というのが基本思想である。同じファイバーでも端局を替えると容量が何倍にもなる例(MAREAの160→200→224 Tbps級への増強など)がその証拠である。
3. 日本はどこで世界とつながっているか — 陸揚げ局と主要ケーブルシステム
3-1. 主要陸揚げ地点(実在を確認できたもの)
国際ケーブルの陸揚局一覧を扱う Submarine Networks の日本ページは、日本に18の国際陸揚局があるとし、以下を列挙する Cable Landing Stations in Japan:
北茨城、阿字ヶ浦(Ajigaura、茨城)、江見(Emi、千葉)、和田(Wada、千葉)、丸山(Maruyama、千葉・南房総)、新丸山、南房総、千倉(Chikura、千葉・南房総)、三浦(神奈川)、二宮(神奈川)、豊橋(愛知)、志摩(Shima、三重)、宮崎、福岡、北九州、直江津(新潟)、石狩(北海道)、沖縄。
事業者自身の公開でも裏付けが取れる:
- NTT系: NTTドコモビジネスエンジニアリングは、自社が運用保守を担う陸揚局として 北茨城、新丸山(南房総)、志摩、沖縄の4局 を明名する NTTドコモビジネスエンジニアリング。
- KDDI系: KDDI千倉海底線中継所(千葉県南房総市千倉町)。1989年にTPC-3目的で開局し、米国、シンガポール、中国、香港、フィリピン、ブルネイ等からのケーブルを収容する KDDI千倉(Wikipedia、KDDI発表等を出典とする記事)。KDDI自身も千倉を「主要な陸揚げ局のひとつ」として写真付きで紹介する KDDI。
- 注意(未検証の誇張として扱う): 千倉のWikipedia記事には「日本の国際通信の99%を本中継所経由で送受信している」という趣旨の記述がある。これは総務省の「日本の国際通信の約99%が(全体として)海底ケーブル経由」という数字と混同した可能性が高く、単一局が99%を担うという主張は、房総+志摩+その他に分散している実態や総務省2026年報告書の記述と整合しないため、本レポートでは事実として採用しない。
- 高萩(茨城): GoogleのTopaz向けにARTERIA Networksが新陸揚局を建設・運用する(後述)。
- 分散の新拠点として報じられるもの: E2A関連で北海道・苫小牧と福岡・糸島への新設(後述、第5節)。これは総務省報告書の「地方分散」方針を先取りする事例として解説記事が紹介するもので、最終的な運用形態は事業者発表で逐次確認が必要である 総務省報告書の解説。
地理の意味:房総は北米への大圏コースの入口、志摩は房総より西にありアジア方面と太平洋横断の両方を受けやすく、東京圏/大阪圏という2大需要地への分散にもなる。FASTERが千倉と志摩の2点に上げたのは意図的な分散である(第4節の震災教訓も参照)。
3-2. 主要ケーブルシステム(接続先別)
米国・北米方面(太平洋横断)
| システム | 日本側陸揚げ | 相手側・経由 | 備考 |
|---|---|---|---|
| FASTER | 千倉(千葉)、志摩(三重) | 米国オレゴン州(陸上延伸でLA、SF、ポートランド、シアトル圏へ) | 2016年運用、60 Tbps、6ペア。コンソーシアム:Google、KDDI、SingTel、China Mobile International、China Telecom Global、Global Transit(当時)。供給:NEC NEC |
| JUPITER | 丸山(千葉)、志摩(三重) | 米国ロサンゼルス、フィリピン・ダエット | 約14,000km。NTT Com、ソフトバンク、Meta(当時Facebook)、Amazon、PLDT、PCCW Globalのコンソーシアム 報道(NTT Com発表転載) |
| Topaz | 志摩(三重)、高萩(茨城) | カナダ・ポートアルバーニ/バンクーバー | アジア―カナダ初の光ケーブル。Google主導、16ペア、240 Tbps、供給:NEC Submarine Networks |
| PC-1 / Japan-US 等(既存世代) | 阿字ヶ浦、志摩、丸山、北茨城 等 | 米国西海岸 | 2000年前後の世代。現在も系として残るものと、役割を新世代に譲ったものが混在する。一覧の典拠は 日本の陸揚局一覧 |
| E2A(建設中) | 丸山(千葉) | 韓国・釜山、台湾・頭城、米国モロベイ | 約12,500km、192 Tbps以上(12ペア)、供給:ASN、2028年下期運用予定と報じられる。総務省報告書解説経由の情報であり、仕様は事業者最終発表で確認を要する 解説記事 |
アジア方面(域内)
| システム | 日本側 | 接続先 | 備考 |
|---|---|---|---|
| ADC (Asia Direct Cable) | 千倉方面(日本) | 中国(香港・広東)、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム | 約9,400km、140 Tbps超。ソフトバンク、中国電信、中国聯通、Singtel、PLDT、Viettel、Tata、CAT等のコンソーシアム。供給:NEC。2024年12月に運用開始とソフトバンクが発表 Singtel/NEC発表 |
| SJC / SJC2 (Southeast Asia-Japan Cable) | 千倉/千葉方面、志摩系 | シンガポール、香港、中国、フィリピン、ブルネイ、タイ、ベトナム等 | 日本―シンガポールを結ぶ域内の幹線。Google等も参加 |
| Apricot | 南房総(千葉) | 台湾、グアム、フィリピン、インドネシア、シンガポール | 約12,000km、12ペア、約290 Tbpsへ増強と報じられる。NTT、Chunghwa Telecom、PLDT、Google、Meta Submarine Networks |
| APCN-2 / EAC-C2C 等(既存世代) | 志摩、千倉、阿字ヶ浦、沖縄 等 | 韓国、中国、台湾、香港、フィリピン、シンガポール、マレーシア | 2000年代のリング型域内網。EAC-C2Cは総延長36,800km・17陸揚局とされる EAC-C2C |
| Candle(計画、2028年) | 日本 | 台湾、フィリピン、インドネシア、マレーシア、シンガポール | Meta主導、24ペア、570 Tbpsと発表される次世代域内幹線 |
豪州・南方面
| システム | 日本側 | 接続先 | 備考 |
|---|---|---|---|
| JGA (Japan-Guam-Australia) | 南房総(千葉) | グアム(接続点)、豪州シドニー&サンシャインコースト | 約9,500km、36 Tbps超。JGA-SouthはGoogle、AARNet、RTIのコンソーシアム、JGA-NorthはRTIのプライベート。供給:ASN+NEC。グアムでSEA-US(グアム―ハワイ―米国)等に接続し、南北軸と東西軸が交わる JGA建設開始 |
構図の読み方: 日本は単なる「終端」ではない。北米―アジアの最短経路(大圏コース)上にあり、太平洋横断ケーブルとアジア域内ケーブルが交差するハブである。グアムも同じ理由で交差点になる。だから日本でケーブルが集中して切れると、日本国内だけでなくアジア―北米の通過トラフィックにも影響しうる。
4. ケーブルが切れると何が起きるか — 障害事例と復旧
4-1. まず頻度と原因
- 頻度:年100〜200件程度(資料により150〜200件)。 総務省資料は「毎年100~200件程度の障害が発生しているとされ」総務省、ICPCを引くReuters系資料は「150-200 incidents per year」で安定推移とする。総延長が伸びても件数が急増していないのは、埋設・鎧装・ルート選定の効果とされる。
- 原因:漁業と錨が約70%。 ICPCのベストプラクティス文書は「each year, fishing and anchoring account for approximately 70 percent of global damage」と明記し、Reuters要約では「70-80% of faults are caused by accidental human activities - primarily fishing and ship anchors」と幅を持たせる ICPC Best Practices。残りが地震、海底地すべり、海流による摩耗、部品故障、(稀に)サメ等の生物、とされる。サメは有名だが主因ではない。
- 修理費の桁感: ICPC系資料では1件平均100万〜300万ドル、修理船のチャーターだけで1日数万ドル規模とされる。要するに「切るのは一瞬、直すのは高額で遅い」。
4-2. 修理はどうやるか(修復船の手順)
KDDIの自社証言と一般的手順は一致する KDDI(verified live):
- 障害点の特定: 陸揚局から光パルスを送るOTDR測定等で、断線までの距離を割り出す。給電異常からは電気的な位置も推定できる。
- 船の手配と回航: 世界の海域は保守ゾーンに分かれ、ゾーンごとに修理船と優先順位が事前に決められている。それでも船が近くにいなければ回航だけで数日〜数週間かかる。修理船は世界でも数十隻規模しかない(「20数隻」「60〜80隻」など数え方で幅がある。専任の修理船か、敷設兼用を含むかで変わる)。
- 引き揚げ: 浅海ではROV(遠隔操作ロボット)がケーブルを掴む/切る。深海ではグラップネル(鉤)をワイヤーで下ろし、海底を引きずってケーブルを引っ掛ける。19世紀の電信ケーブル修理と原理は同じである。KDDIの東日本大震災事例では、水深6,200m級の回収、土砂に埋まったケーブルを切らないよう毎分約3mで巻き上げて19時間かかった例が報じられる。
- 船上接続(スプライス): 損傷部を切り落とし、健全な両端を確認し、予備ケーブルを間に挿入して光ファイバーを1本ずつ融着接続する。揺れる船上で髪の毛より細いガラスをつなぐ手作業であり、1カ所で通常7〜10日(KDDI証言)かかる。
- 再敷設・埋設: つないだケーブルを海底に戻し、浅海ではROVやプラウで埋設し直す。試験して復旧。
所要時間の目安は、浅海で数日、深海で1〜3週間が「1カ所・船がすぐ来れば」の話。許可取得、悪天候、船の空き待ち、紛争海域が入ると月単位になる(紅海の例)。
4-3. 実際の障害事例
| 事例 | 原因 | 規模 | 復旧 | 教訓 |
|---|---|---|---|---|
| 2006年12月 恒春地震(台湾沖) | 地震→海底地すべり/混濁流が330km超を流れ下る | 9ケーブルに21障害。中国、香港、ベトナム、台湾、シンガポール、日本、フィリピン間の通信が深刻に阻害、銀行・航空予約・メールが停止/遅延 | 修理船11隻で49日。一部遅延は2カ月後も残ったとICPC/ITU資料が伝える ICPC発表を引くKentik、ITU資料 | 地震は1本ずつ切らない。地すべりが時間差で次々と切る(震源から110kmで約4時間後、173kmで約9時間後) |
| 2011年3月 東日本大震災 | 地震・津波・海底土砂崩れ | 千葉・茨城沖で20カ所以上断絶(KDDI)。他報道では「太平洋横断12本中7本が翌朝までに切断判明」とも | KDDIオーシャンリンク単独に近い形で開始(原発事故の影響で他船が近海に来なかったと報じられる)。復旧作業150日超、帰港は8月6日。通常1カ所7〜10日が、埋没と交差の多さでさらに長期化 KDDI(verified live) | 日本のユーザーの多くが「ネットは使えた」と感じたのは、残存ケーブルと迂回で致命傷を免れたため。裏側は危機的だった。以後のFASTERは千倉から一旦南下するルートと千倉+志摩分散、高台陸揚局で設計された |
| 2022年1月 トンガ海底火山噴火 | 噴火に伴う海底の密度流・地すべり | トンガ―フィジー間唯一の国際ケーブルが約80〜92kmにわたり損傷。国内ケーブルも損傷 | 38日間、完全なインターネット接続なし(衛星の限定的接続のみ)。修理船Relianceが20日かけて92kmを交換し2月22日復旧。国内離島ケーブルの完全復旧はさらに数カ月〜1年規模と報じられた Cloudflare Blog | 「1本依存」の島嶼国では冗長性が存在しない。衛星は命綱にはなっても代替にはならない実例 |
| 2023年2月 台湾・馬祖列島 | 中国漁船(2月2日)と中国貨物船(2月8日)による損傷と台湾当局が発表 | 台湾本島―馬祖の2本とも切断、住民約14,000人がほぼオフライン。バックアップはマイクロ波(当時2Gbps) | 1本の復旧に約50日(3月末)と台湾のレジリエンス報告が整理。修理船の到着は4月20日以降と当初報じられた Straits Times / AP | 台湾国家通信委員会は「故意の証拠はない」とした(第5節)。過去5年で27回切れたという頻度自体が安全保障論点になった |
| 2024年2-3月 紅海 | フーシ派のミサイルで被弾した貨物船Rubymarが漂流し、錨を引きずったことが有力な原因と米政府等が結論 | AAE-1、EIG、SEACOM/TGN-Eurasia の3本が損傷。欧州―アジア間トラフィックの約25%に影響したという推計が報じられた(推計値であり実測ではない) | 許可と安全の問題で遅れ、AAE-1の復旧は7月中旬(約4.5〜5カ月後)、全体では約6カ月とTeleGeographyが整理したと報じられる Arena(経緯の整理) | 切断そのものより「紛争海域では修理に行けない」ことが長期化の主因になる |
| 2024年3月 西アフリカ沖 | 海底の岩盤崩落/地すべりが疑われる | ACE、SAT-3、WACS、MainOne の4本が同時オフライン、13カ国で劣化〜ほぼ全断(コートジボワール等) | SAT-3は4月初旬、MainOneは5月中旬の復旧見通しと当初報じられた | 大陸の西岸という単一コリドーへの集中が露呈した |
4-4. 「気づかないケース」と「大規模障害になるケース」の違い
気づかない条件(通常の1本障害):
- 行き先までに複数の物理的に離れたケーブルがあり、余剰容量がある
- BGP等の経路制御で自動的に迂回し、ユーザーは一瞬の遅延増加にしか気づかない
- コンテンツが国内CDNにキャッシュされている
大規模障害になる条件:
- 同時多発: 地震・地すべりのように同一海域の複数本をまとめて切る場合。迂回先も同時に失われる
- チョークポイント集中: 紅海/バブ・エル・マンデブ、ルソン海峡、スエズ、馬祖周辺のように、多数のケーブルが狭い海域を共有する場合
- 単一・少数依存: トンガや馬祖のように国際接続が1〜2本しかない島嶼
- 陸揚げ集中: ケーブルは無事でも陸揚局側(房総・志摩)が被災/攻撃されれば同じ結果になる。これが日本の総務省報告書の懸念である
- 迂回先の輻輳(カスケード): テラビット級のトラフィックが細い迂回路に雪崩れ込み、健全だった経路まで落とす。冗長性は「予備が1本ある」ではなく「迂回しても容量が足りる」まで設計して初めて冗長である
- 修理の遅延要因: 修理船不足、許可、紛争、悪天候。物理復旧日数と体感の障害期間は別であり、迂回でサービスが戻っても、**冗長性を失ったまま数カ月運用する「静かな危機」**が残る
5. 安全保障・地政学 — 事実と推測を分けて
5-1. 確認できる事実(文書・司法・公式発表があるもの)
A. 米国の規制による中国排除
- 米FCCは、米国に陸揚げするケーブルについて、中国等の「外国敵対者」による所有・アクセス、対象国技術の使用を制限する規則整備を進めてきた。2025年のFCC委員長発言として「foreign adversaries, especially China, have posed threats to submarine cable infrastructure」と報じられる Data Center Dynamics。
- 2020年以降、米国当局は米国―香港間の直接接続を国家安全保障上の理由で複数回認めなかった/推奨しなかったと報じられる。代表例が PLCN(Pacific Light Cable Network):GoogleとMeta等が建設したが、香港側パートナーの中国系資本を問題視したTeam Telecomの勧告で、香港―ロサンゼルス区間の直接運用は認められず、台湾・フィリピン区間に限定された。
- SEA-ME-WE 6 では、当初有力だった中国系HMN Techではなく米SubComが供給者に選ばれた。米国の外交働きかけが背景にあったとReuters等が報じる(「米国の圧力で決まった」という因果は報道ベースであり、当事者が公式に認めた文書はない点は留保する)。
- 世界銀行主導の東ミクロネシア・ケーブルでは、2021年にHMNへの発注が見送られ計画自体が仕切り直しになった。
B. 供給者(造る側)の寡占と中国の位置
- システム供給は ASN(仏)、SubCom(米)、NEC(日)、HMN Tech(中、旧Huawei Marine Networksが恒通光電へ売却されて改称)の4社でほぼ占める。シェアは集計方法で大きくぶれる:ISEAS(シンガポール)の2025年分析は「4社で約98%」、東南アジアに限れば日本(NEC+富士通)が41%、米20%、中19%、仏18%とする ISEAS Perspective。別の集計ではASN約40%、SubCom約31%、NEC約21%、HMN約8%(新設容量ベース)とする要約もある XenoSpectrum(TeleGeography系データの要約)。数字が食い違うのは、地域・年次・「長さ/システム数/金額」のどれで数えるかが違うためであり、順位の構図(米仏日3強+中国HMN)自体は各資料で一致する。
- 最新の東南アジア案件(MViSTA、ベトナム―マレーシア―シンガポール―タイ、2028年後半予定)でも、開発側が「中国サプライヤーを入札から除外し、NECかASNから選ぶ」「南シナ海の中国主張海域を避けるルート」とReutersに明言したと報じられる。これは地政学がルート図に直接表れた例である。
C. バルト海の一連の損傷(損傷は事実、故意は未確定) 時系列はReuters系タイムラインで確認できる gCaptain / Reuters Timeline:
- 2023年10月:Balticconnector(ガス管)+通信ケーブル。フィンランド当局は香港船籍コンテナ船 NewNew Polar Bear の錨引きずりが原因と結論。船長は香港で刑事責任を問われる手続きに入った
- 2024年11月:C-Lion1(フィンランド―ドイツ)とBCS East-West(リトアニア―スウェーデン)。中国ばら積み船 Yi Peng 3 の航跡が損傷時刻・場所と重なった。中国が関係国の立会い調査を認めたが、スウェーデン事故調査当局は2025年4月、「故意に錨を引きずった確証はない」とした
- 2024年12月:EstLink 2(電力)+通信ケーブル4本。フィンランドがタンカー Eagle S(ロシアの「シャドーフリート」とフィンランド側が主張)を拿捕。しかしフィンランドの裁判所は2025年10月、故意の立証ができないとして船長らへの訴えを退けた
- 2025年1月:ラトビア―ゴットランド間ケーブル。スウェーデン検察は事故と判断して船を解放した
これを受けてNATOはバルト海での哨戒(Baltic Sentry)を強化し、EUは2025年2月にケーブル安全保障の行動計画を出した。「警戒を強めた」ことは事実だが、それは「攻撃が立証された」こととイコールではない。
D. 日本の政策(2025-2026年)
- 総務省「国際海底ケーブルの防護等に関する検討会」は2026年7月10日に報告書を公表したとされる。検討会議事録(総務省公式PDF)でも、課題として (1)陸揚地点の房総・志摩への集中、(2)陸揚局の一部老朽化と監視体制、(3)サプライヤーの競争力低下と脆弱な敷設・保守体制・人材不足、(4)所有ステークホルダーの多様化 の4点が明示されている 総務省・検討会議事録PDF。
- 方針は:多ルート化と陸揚局の地方分散、異常の早期検知、修理時の国の支援、経済安全保障推進法の枠組みでの特定重要設備の事前届出(陸揚げシェア一定以上の事業者が対象と解説される)、敷設船・保守船の国内体制維持、である。
- Quad(日米豪印)はケーブル接続性・強靱性パートナーシップを掲げ、インド太平洋での「安全で多様で強靱な」ケーブル網を外交文書で繰り返し確認している。これは宣言レベルの事実であり、個別ケーブルの資金・仕様は案件ごとに別である。
E. 台湾をめぐる懸念
- 馬祖の2本切断(2023年)について、台湾当局自身が「故意の証拠はない」と公表したことは上記の通りである。一方で、過去5年27回という頻度、中国船の関与が繰り返される地理(福建省沖約10km)、そして2025年には台湾―澎湖ケーブル損傷で中国系船籍船の船長が台湾で有罪判決(懲役3年)を受けたと報じられる事例もあり、「個々の事件の故意は立証困難でも、パターンとしてグレーゾーンの圧力になりうる」というのが台湾・同盟国側の公式な懸念表明の水準である。2026年3月の台湾近海損傷をめぐる日本メディアの取材報道(中国船4隻の特異な航路等)も「可能性が浮上」という表現にとどまる。
5-2. 推測・主張の域を出ないもの(事実として書かない)
- 「ロシア/中国がバルト海で組織的なケーブル破壊工作キャンペーンを行っている」という断定:西側当局者による匿名の懸念表明やメディア分析は多数あるが、個別事件の司法・事故調査の結論は上記の通り「事故」「確証なし」が続いている。懸念と立証は分ける。
- 「ケーブルを盗聴(タッピング)している」という一般論:冷戦期の事例(米海軍によるソ連海底ケーブル盗聴作戦 IVY BELLS は歴史的事実として知られる)や、陸揚局でのアクセスが情報機関の関心対象になるという構造的指摘はあるが、現在運用中の特定の商用ケーブルが特定国に盗聴されているという検証可能な公開証拠は、本調査では確認できなかった。 暗号化が前提の現代では、物理的にアクセスできても内容が読めるとは限らない点も重要である。
- 「有事に敵国がケーブルを全部切ってインターネットを止める」という想定:技術的には浅海部では可能だが、主要国間は本数が多く、衛星・陸上迂回・第三国経由もあり、「全部を同時に、修理も妨害し続ける」ハードルは高い。現実的な脅威モデルは全断ではなく、特定国・島嶼の孤立化、復旧の遅延、金融・クラウドの遅延と輻輳、修理船の奪い合いである(紅海とトンガが示した通り)。
- 紅海2024年について「フーシ派がケーブルを直接切断した」という初期報道は、その後の米政府等の調査で「被弾したRubymarの錨が原因」という説明に置き換わった。初期の断定を今も事実として繰り返すべきではない。
5-3. ルール側の土台
海底ケーブルの敷設・保護は国連海洋法条約(UNCLOS)が土台で、公海・EEZでの敷設の自由(58条、87条、112〜115条等)と、故意・過失による損傷を国内法で犯罪とする義務(113条)が定められる。ただし領海内では沿岸国の主権が強く、修理の許可が遅れる要因にもなる。1884年パリ条約以来の古い枠組みを現代化すべきという議論が、英国の2026年白書(損傷への罰則強化案)など各国で進んでいる。
6. 誰がケーブルを持っているのか — コンソーシアムから巨大テックへ
6-1. 旧モデル:通信会社コンソーシアム
- 1システム数億ドル規模の費用とリスクを、関係国の通信会社(NTT、KDDI、AT&T、SingTel、中国電信等)がコンソーシアムを組んで分担し、容量を分け合う/他社に売るモデルが20世紀末〜2010年代の標準だった。
- FASTER(2016年)の顔ぶれが移行期を象徴する:KDDI、SingTel、中国移動、中国電信といった通信会社に混じって Googleが既に参加している NEC。
- 「所有」の実態は1枚岩ではない。出資持分(equity)、ファイバーペア単位の所有、長期使用権(IRU: Indefeasible Right of Use)、波長/容量の購入、と権利の切り方が何層もある。だから「Googleが何本持っているか」の数も、持分参加を含むか単独所有かで変わる。
6-2. 新モデル:ハイパースケーラーが需要家から所有者へ
| 指標 | 数字 | 出典・注記 |
|---|---|---|
| コンテンツ事業者の使用容量シェア | 2012年以前 10%未満 → 2020年 66% | TeleGeography、2021年地図発表 Computer Weekly |
| ハイパースケーラー4社の国際帯域使用シェア(近年) | 約71〜75% | 複数の近年の要約が TeleGeography を引いて71%(lit capacity)/約75%(used bandwidth)とし、時点と定義で幅がある Mappr(TeleGeography集計の要約)、XenoSpectrum |
| 大西洋横断での4社シェア | 約84〜90% | 資料により84%(capacity demand)〜約90%(capacity)と幅がある。太平洋横断は約78〜80%超とされる |
| Googleの持分参加システム数 | 33〜34システム | 集計年により33/34と変動 Mappr |
| Metaの持分参加システム数 | 19〜20システム(一部資料では16既存+新規) | 同上。数え方(運用中のみ/計画含む)で変わる |
| Microsoft+Amazon | 合わせて 約10システムに持分参加と要約される。Amazonは単独所有の大西洋横断Fastnetを発表、Microsoftは単独所有より容量購入・共同投資が中心とされる | 同上 |
代表的プロジェクト:
- Google単独/主導: Dunant(米―仏、約250〜300 Tbps級)、Grace Hopper(米―英・西)、Equiano(欧州―西アフリカ―南ア)、Topaz(カナダ―日本、240 Tbps)。「コンソーシアムは意思決定が遅い」とGoogle幹部が公言し、単独建設を進めた経緯が報じられる。
- Meta主導: 2Africa(アフリカ周回約45,000km、180 Tbps級、2025年11月にコア部分完成と報じられる)、Project Waterworth(50,000km超、米・ブラジル・南ア・インド等を結び紅海と南シナ海を避けるルート設計が公表されている)、Candle(アジア、570 Tbps計画)。
- 共同: JUPITER(Meta+Amazon+通信会社)、Apricot(Google+Meta+NTT等)、MAREA(Meta+Microsoft、大西洋、200 Tbps級)。
6-3. なぜテック企業が「借りる」から「持つ」に変わったのか
- 自分たちが最大の需要家になった。 データセンター間通信、クラウドのリージョン間同期、動画配信、AI学習データの移動が、通信会社の音声・企業回線需要を桁で上回った。借りる容量の単価より、造って持つ方が安くなる規模に達した。
- ルートと冗長性を自分で決めたい。 どの陸揚局に上げ、どのチョークポイントを避けるかは、サービスの可用性そのものになった。
- 技術要求を供給者に押し込める。 SDM、WSS(波長選択スイッチ)、オープンケーブル(端局を所有者が自由に選べる方式)といった仕様は、ハイパースケーラーの要求で商用化が加速した。
6-4. では「インターネットは4社に握られた」のか — 留保
- 使用容量のシェアと、物理インフラの所有・支配は同じではない。 多くのシステムは今もコンソーシアムで、通信会社、政府系ファンド、データセンター事業者等が権利を持つ。4社は「最大の需要家兼主要出資者」であり、全ケーブルの単独所有者ではない。
- 造る力は別の寡占である。 第5節の通り、製造・敷設・保守は米仏日中の4社、とりわけ米仏日の3社に集中する。GoogleもMetaも自前ではケーブルを造れない。この「所有レイヤーと製造レイヤーの分離」が、この産業の地政学の本質である。
- 新規参入の余地を広げた面もある。 ハイパースケーラーの資金で、これまで採算が合わなかったアフリカ周回(2Africa、Equiano)や太平洋島嶼への接続が実現した例は事実として評価されている。集中のリスクと、接続の拡大という利益は同時に存在する。
Could not verify / 留意点
- 「99%」の原典の一次統計は存在しない。 ITU、CRS、総務省はいずれも業界推計の引用であり、推計方法の詳細(サンプル、年次)は公開資料だけでは追い切れなかった。本レポートでは定義の違いとして整理したが、パーセント自体を実測値として扱わないこと。
- 千倉単一局で日本の国際通信の99%という記述(Wikipedia経由、新聞記事を出典とする)は、総務省資料の本来の数字と混同した可能性が高く、裏付けが取れなかったため採用しなかった。
- E2Aの仕様・苫小牧/糸島の新陸揚げは、総務省報告書の解説記事経由で確認した範囲であり、事業者(ソフトバンク等)の最終的な公式仕様発表での逐次確認が必要である。
- 修理船の総数は「20数隻(専任修理船)」から「60〜80隻(敷設兼用・能力を持つ船を含む)」まで資料で幅が大きく、単一の数字を断定できなかった。
- 供給者シェアは地域・年・集計単位で大きく変わる(第5節)。順位構造は一致するが、パーセントの単独引用は避けるべきである。
- バルト海・台湾周辺の個別事件は捜査・訴訟が継続しているものがあり、2026年10月時点の公開結論として記載した。今後変わりうる。
- 本調査ではページの指示に従った行動はしていない。調査中に表示された外部コンテンツはすべて出典資料としてのみ扱った。
Sources
一次・公的・事業者(verified live と明記したものは調査窓で本文を確認)
- 総務省・地域社会DXナビ「島国日本の要・海底ケーブル敷設船の実力」— https://dx-navi.soumu.go.jp/knowhow/017 — verified live。日本の国際通信約99%、衛星比較160倍/5倍、中継装置40〜100km、総延長約150万km、障害年100〜200件
- 米議会調査局 CRS R47237「Undersea Telecommunication Cables」— https://www.congress.gov/crs-product/R47237 — verified live。95%(大陸間インターネット)と99%(大洋横断デジタル通信)の定義分離、断面構造、PFE、容量の発展
- NEC「Submarine Cable Systems」— https://www.nec.com/en/global/prod/nw/submarine/ — verified live。設計寿命25年超・水深8,000m、敷設450,000km、MIST 216Tbps超
- KDDI Spark Journal「世界をつなぎ直したもうひとつの復旧『海底ケーブル』東日本大震災から15年」— https://spark-journal.kddi.com/tsunagu/article00324/ — verified live。震災で20カ所以上断絶、修理7〜10日/カ所、150日超、FASTERの分散設計、千倉陸揚局
- 総務省「国際海底ケーブルの防護等に関する検討会(第6回)議事録」PDF — http://www.soumu.go.jp/main_content/001094426.pdf — index。房総・志摩集中ほか4課題
- ITU / WSIS Forum 2026 Session 476 成果文書 — https://energypact.org/assets/wsis_forum_2026/docs/session-outcomes/session-476.pdf — index。99%超は大陸間データトラフィック
- ICPC「Best Practices」— https://www.iscpc.org/documents/?id=3733 — index。漁業+錨が損傷の約70%
- NEC FASTER運用開始発表(2016年)— https://www.nec.com/en/global/prod/nw/submarine/news/20160629.html — index。9,000km、60Tbps、千葉・三重陸揚げ
- Singtel ADC建設発表 — https://www.singtel.com/about-us/media-centre/news-releases/singtel-and-asia-direct-cable-consortium-to-build-asia-pacific-submarine-cabl — index。9,400km、140Tbps超
- NTTドコモビジネスエンジニアリング「ランディングステーション」— https://www.nttceng.com/divisions/network/landingstation/ — index。北茨城、新丸山、志摩、沖縄の4局を運用
業界データ・専門資料
- TeleGeography 2025 Submarine Cable Map の要約(InterGlobix)— https://www.interglobixmagazine.com/undersea-2025-the-year-the-subsea-cable-map-quietly-changed/ — 597システム、1,712陸揚げ
- Submarine Networks「Cable Landing Stations in Japan」— https://submarinenetworks.com/en/stations/asia/japan/cls-in-japan — 日本の18陸揚局一覧
- Submarine Networks「Topaz」— https://www.submarinenetworks.com/en/systems/trans-pacific/topaz — 16ペア、240Tbps、志摩・高萩―ポートアルバーニ
- Submarine Networks「Apricot」— https://www.submarinenetworks.com/en/systems/intra-asia/apricot — 12,000km、12ペア、211→290Tbps
- JGA建設開始(Subsea World News)— https://subseaworldnews.com/2018/04/04/japan-guam-australia-subsea-cable-construction-starts/ — 9,500km、36Tbps超、南房総―グアム―シドニー
- JUPITER建設合意(NTT Com発表の報道転載)— http://mobilegadget.jp/blog-entry-707.html — 約14,000km、志摩・丸山陸揚げ、6社コンソーシアム
- NEC/OCC/住友電工 マルチコアファイバー試験(転載)— https://www.world-energy.org/article/20573.html — LWケーブル外径17mm、水深8,000m
- TeleGeography コンテンツ事業者シェア(Computer Weekly)— https://www.computerweekly.com/news/252502398/More-than-8bn-forecast-for-cable-investments-over-next-three-years?vgnextfmt=print — 2012年以前10%未満→2020年66%
- Mappr「Submarine Cables That Carry the Internet (2026)」(TeleGeography集計の要約)— https://www.mappr.co/submarine-internet-cables/ — Google 34、Meta 20システム、ハイパースケーラー約75%
- XenoSpectrum ハイパースケーラーと供給者シェアの要約 — https://xenospectrum.com/en/submarine-cable-ownership-shift/ — 使用帯域約75%、供給はASN/SubCom/NECで約92%とする集計
- ISEAS Perspective 2025/21(東南アジアの供給者分析)— https://www.iseas.edu.sg/articles-commentaries/iseas-perspective/2025-21-the-struggle-for-subsea-cable-supremacy-in-southeast-asia-asean-relying-on-diverse-suppliers-by-cha-hae-won/ — 4社で約98%、東南アジアでは日本41%
障害・地政学の報道/分析
- Cloudflare Blog「Internet is back in Tonga after 38 days of outage」— https://blog.Cloudflare.com/internet-is-back-in-tonga-after-38-days-of-outage/ — 38日、Relianceが92km交換に20日
- Kentik Blog(ICPC恒春地震発表の引用を含む)— https://www.kentik.com/blog/dual-subsea-cable-cuts-disrupt-african-internet/?int_source=knac — 9ケーブル21障害、11隻49日
- ITUワークショップ資料(恒春地震の被害整理)— https://www.itu.int/en/ITU-T/Workshops-and-Seminars/qos/20240304/Documents/4-Alexandre%20Nheve.pdf
- Straits Times / AP「Months-long Internet outage highlights Taiwan's network vulnerabilities」(馬祖)— https://www.straitstimes.com/asia/east-asia/months-long-internet-outage-highlights-taiwan-s-network-vulnerabilities?ai-allowed=1 — 2本切断、14,000人、27回/5年、故意の証拠なしとする当局見解
- gCaptain / Reuters「Timeline Of Suspected Underwater Sabotage In Baltic Sea」— https://gcaptain.com/timeline-of-suspected-underwater-sabotage-in-baltic-sea/ — NewNew Polar Bear、Yi Peng 3(確証なし)、Eagle S(裁判で訴え却下)
- Arena「The Miracle Under the Sea」(紅海2024年の経緯整理)— http://arenamag.com/articles/the-miracle-under-the-sea — Rubymarの錨、3本損傷、復旧は7月まで
- Data Center Dynamics「US pushes for ban on Chinese technology in subsea cables」— https://www.datacenterdynamics.com/en/news/us-pushes-for-ban-on-chinese-technology-in-subsea-cables/ — FCC方針、SEA-ME-WE 6、東ミクロネシア、HMNの経緯
- Gulf News(ITU引用、衛星との役割分担)— https://gulfnews.com/technology/starlink-vs-submarine-cables-can-satellites-keep-the-internet-running-when-cables-break-1.500721822
- 総務省報告書の解説(Ponflog、E2Aと地方分散を含む)— http://ponflog.com/submarine-cable-protection-report/ — 二次解説として使用
- EAC-C2C(Wikipedia、原典への参照を含む)— https://en.wikipedia.org/wiki/EAC-C2C — 36,800km、17陸揚局
- KDDI千倉海底線中継所(Wikipedia、KDDI発表等を出典とする)— http://ja.wikipedia.org/wiki/KDDI千倉海底線中継所 — 1989年開局、収容先。なお同記事の「99%を本中継所経由」という記述は未検証として本文で明示した