海底ケーブルとインターネットの実体 — 深掘り調査レポート


結論(先に要点)

  1. 「99%」は大筋で正しいが、意味を限定しないと誤解を招く。 ITUは「海底ケーブルは大陸間データトラフィックの99%超を運ぶ」とし、日本の総務省資料も「日本の国際通信の約99%が海底ケーブル経由」とする。一方、米CRSは同じ報告書の中で「大陸間インターネット・トラフィックの約95%」と「大洋横断デジタル通信(音声・データ・インターネット)の99%」を併記している。つまり95%と99%は矛盾というより、何を分母にするか(インターネットだけか、音声を含むデジタル通信全体か/大陸間か、大洋横断か)の違いである。国内通信、国内で完結するCDNキャッシュ配信まで含めた「全インターネット通信の99%」ではない。
  2. 衛星は代替ではなく補完である。 総務省資料はケーブル1本の伝送容量を衛星1機の約160倍、日米間の伝搬速度を約5倍とする。衛星は離島・船舶・航空・災害時の限定バックアップには不可欠だが、国全体の動画・クラウド・AIデータセンター間通信を丸ごと担う容量も遅延特性もない。
  3. ケーブル自体は驚くほど細い。 深海用は直径約17〜20mm(庭のホース程度)、浅海用は鋼線鎧装で50mm前後〜それ以上になる。中身は髪の毛程度の光ファイバー、銅管(給電)、鋼線、ポリエチレン等。設計寿命は一般に25年超で、最新世代は1システムで200〜300Tbps級、実験・次期システムではさらに上を狙う。
  4. 日本は「房総(千葉)+志摩(三重)」への集中が最大の弱点である。 千倉・丸山/南房総、志摩が太平洋横断とアジア域内の結節点で、ほかに北茨城・阿字ヶ浦、高萩、沖縄、福岡・北九州等がある。総務省の2026年報告書も陸揚地点の房総・志摩集中を課題の筆頭に挙げ、地方分散・多ルート化を打ち出している。
  5. 1本切れても通常は気づかない。複数本・チョークポイント・単一ケーブル依存の島では大障害になる。 世界で年150〜200件前後の障害が起き、その約70〜80%は漁業と錨による偶発損傷とされる(ICPC)。冗長経路への自動迂回で吸収されるのが通常だが、2006年台湾沖地震(9本・21障害、復旧49日)、2011年東日本大震災(千葉・茨城沖20カ所以上、修理完了まで150日超)、2022年トンガ噴火(38日間ほぼ孤立)のように、同時多発や依存度が高い場合は例外になる。
  6. 地政学では「事実」と「疑い」を分けることが必須である。 バルト海や台湾・馬祖、紅海で実際にケーブルが切れたことは事実だが、Yi Peng 3事件ではスウェーデン当局が「故意の確証なし」、Eagle S事件ではフィンランドの裁判所が故意の立証不足で訴えを退けた(2025年10月)など、損傷=破壊工作の証明ではない事例が続く。対照的に、米国FCCによる中国製技術・中国企業の排除、PLCNの香港接続不認可、SEA-ME-WE 6での供給者交代といった規制・調達面の米中対立は文書で確認できる事実である。
  7. 所有の主役は通信会社コンソーシアムから巨大テックへ移った。ただし「造る会社」は別である。 TeleGeography集計ではコンテンツ事業者の使用容量シェアは2012年以前の10%未満から2020年に66%へ跳ね上がった。近年の要約ではハイパースケーラー4社(Google、Meta、Microsoft、Amazon)で国際帯域使用の約71〜75%とされる。だが製造・敷設は今もSubCom(米)、Alcatel Submarine Networks=ASN(仏)、NEC(日)の3社+HMN Tech(中)がほぼ担う寡占市場である。

1. 国際通信の99%前後を海底ケーブルが担うのか — 定義と衛星との違い

1-1. 数字の出典をたどると、3つの言い方が混在している

出典 言い方 分母(何と何を比べたか)
ITU(国際電気通信連合)/ITU-ICPC助言機関 「99%超」 大陸間(intercontinental)データトラフィック。ITU主催のWSISフォーラム2026成果文書も「Submarine cables carry over 99 per cent of intercontinental data traffic」と明記する ITU/WSIS成果文書
米議会調査局 CRS R47237 「約95%」と「99%」を併記 前者は 大陸間のグローバル・インターネット・トラフィック、後者は 大洋横断(transoceanic)デジタル通信=音声・データ・インターネット。同一報告書内で定義を分けて書いている点が重要である CRS(verified live)
CSIS(2024年報告、二次引用で確認) 「95%超」 国際データ全体。CRS系の95%ラインと近い
総務省(日本) 「約99%」 日本の国際通信。総務省の地域社会DXナビは「日本の国際通信の約99%が海底ケーブルを経由しています」とし、出典として総務省資料を引く 総務省・地域社会DXナビ(verified live)。KDDIも「日本の国際通信において、その約99%を支えているのが海底ケーブル」と同趣旨を述べる KDDI Spark Journal(verified live)
NEC 「99%」 「国際データトラフィック」の99%を支えると自社紹介で記載 NEC(verified live)。業界側の通説としての使用である

読み解き:

1-2. 衛星通信の実際の役割


2. 海底ケーブル1本の構造・太さ・容量・寿命 — 中継器と電力供給

2-1. 断面構造

CRSが図示する典型的な断面は、外側から:

  1. ポリエチレン(外被)
  2. マイラーテープ
  3. 鋼線(stranded steel wires、引張・圧力への強度)
  4. アルミニウム防水層
  5. ポリカーボネート
  6. 銅またはアルミニウム管(光ファイバーを収め、かつ中継器への給電導体を兼ねる)
  7. 石油ゼリー(充填・防水)
  8. 光ファイバー(中心)

出典:CRS R47237、Figure 3(verified live)

中心の光ファイバー自体は髪の毛程度(コーティング後で250μm=0.25mmというNEC/OCC系の発表もある。下記)。「太いケーブル」の太さのほとんどは、データを運ぶガラスではなく、守るための鎧と、電気を運ぶ銅である。

2-2. 太さは水深で変わる

2-3. 中継器(リピーター)と電力供給 — 海底に「電源」はない

2-4. 容量の桁感 — 世代比較

容量は「ファイバーペア数 × 1ペアあたり容量」で決まる。波長多重(WDM/DWDM)で1本のファイバーに多数の波長を載せ、各波長100Gbps〜400Gbps超で運ぶ。近年はファイバーペア自体を増やす空間分割多重(SDM)が主流になった。

システム(例) 運用開始 距離 ファイバーペア 設計容量
TAT-8(初の大西洋横断光ケーブル) 1988年 — 2ペア+予備 電話約4万回線相当(CRS)
FASTER(日米) 2016年 約9,000km 6 60 Tbps(100Gbps×100波長×6ペア)NEC
JUPITER(日米比) 2020年 約14,000km — 60 Tbps超(発表資料により表記差あり。下記注)
JGA(日本―グアム―豪州) 2020年 約9,500km 2+2 36 Tbps超(南36/北24と分けて報じる資料もある)
ADC(アジア域内) 2024年運用開始 約9,400km 複数(8ペアと報じる資料あり) 140 Tbps超 Singtel/NEC発表
MIST — 約8,100km(シンガポール―インド等) — 216 Tbps超 NEC
Topaz(日本―カナダ、Google) 2024年 — 16 240 Tbps
Apricot(日本―シンガポール域内) 一部運用・延伸中 約12,000km 12 当初約211 Tbps、約290 Tbpsへ増強と報じられる
Candle(Meta主導、2028年予定) 計画 約8,000km 24 570 Tbpsと発表(Meta発表を伝えるCNA経由資料)

注:JUPITERについては「400Gbps対応」を強調する当時のNTT Com系報道と、「設計容量60Tbps超」とする資料が併存する。前者は1波長あたりの伝送技術の説明、後者はシステム総容量であり、同じ数字を比べているのではない。同様にApricotの211/290 Tbps差は初期設計と増強後の違いである。この種の「食い違い」は誤報ではなく、発表時点と定義の違いであることが多い。

出典(JUPITER/Topaz/JGA/Apricot): JUPITER建設合意の報道(NTT Com発表の転載)、 Topaz(Submarine Networks)、 JGA建設開始、 Apricot(Submarine Networks)

桁感のまとめ: 2010年代半ばの太平洋横断で60 Tbps級だったものが、2020年代の新世代では200〜300 Tbps級が標準になり、計画段階では500 Tbps超も出てきた。つまり「最新1本」は、少し前の世代の4〜5本分に相当する。逆に言えば、最新鋭1本への依存度も上がっている。

2-5. 寿命


3. 日本はどこで世界とつながっているか — 陸揚げ局と主要ケーブルシステム

3-1. 主要陸揚げ地点(実在を確認できたもの)

国際ケーブルの陸揚局一覧を扱う Submarine Networks の日本ページは、日本に18の国際陸揚局があるとし、以下を列挙する Cable Landing Stations in Japan:

北茨城、阿字ヶ浦(Ajigaura、茨城)、江見(Emi、千葉)、和田(Wada、千葉)、丸山(Maruyama、千葉・南房総)、新丸山、南房総、千倉(Chikura、千葉・南房総)、三浦(神奈川)、二宮(神奈川)、豊橋(愛知)、志摩(Shima、三重)、宮崎、福岡、北九州、直江津(新潟)、石狩(北海道)、沖縄。

事業者自身の公開でも裏付けが取れる:

地理の意味:房総は北米への大圏コースの入口、志摩は房総より西にありアジア方面と太平洋横断の両方を受けやすく、東京圏/大阪圏という2大需要地への分散にもなる。FASTERが千倉と志摩の2点に上げたのは意図的な分散である(第4節の震災教訓も参照)。

3-2. 主要ケーブルシステム(接続先別)

米国・北米方面(太平洋横断)

システム 日本側陸揚げ 相手側・経由 備考
FASTER 千倉(千葉)、志摩(三重) 米国オレゴン州(陸上延伸でLA、SF、ポートランド、シアトル圏へ) 2016年運用、60 Tbps、6ペア。コンソーシアム:Google、KDDI、SingTel、China Mobile International、China Telecom Global、Global Transit(当時)。供給:NEC NEC
JUPITER 丸山(千葉)、志摩(三重) 米国ロサンゼルス、フィリピン・ダエット 約14,000km。NTT Com、ソフトバンク、Meta(当時Facebook)、Amazon、PLDT、PCCW Globalのコンソーシアム 報道(NTT Com発表転載)
Topaz 志摩(三重)、高萩(茨城) カナダ・ポートアルバーニ/バンクーバー アジア―カナダ初の光ケーブル。Google主導、16ペア、240 Tbps、供給:NEC Submarine Networks
PC-1 / Japan-US 等(既存世代) 阿字ヶ浦、志摩、丸山、北茨城 等 米国西海岸 2000年前後の世代。現在も系として残るものと、役割を新世代に譲ったものが混在する。一覧の典拠は 日本の陸揚局一覧
E2A(建設中) 丸山(千葉) 韓国・釜山、台湾・頭城、米国モロベイ 約12,500km、192 Tbps以上(12ペア)、供給:ASN、2028年下期運用予定と報じられる。総務省報告書解説経由の情報であり、仕様は事業者最終発表で確認を要する 解説記事

アジア方面(域内)

システム 日本側 接続先 備考
ADC (Asia Direct Cable) 千倉方面(日本) 中国(香港・広東)、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム 約9,400km、140 Tbps超。ソフトバンク、中国電信、中国聯通、Singtel、PLDT、Viettel、Tata、CAT等のコンソーシアム。供給:NEC。2024年12月に運用開始とソフトバンクが発表 Singtel/NEC発表
SJC / SJC2 (Southeast Asia-Japan Cable) 千倉/千葉方面、志摩系 シンガポール、香港、中国、フィリピン、ブルネイ、タイ、ベトナム等 日本―シンガポールを結ぶ域内の幹線。Google等も参加
Apricot 南房総(千葉) 台湾、グアム、フィリピン、インドネシア、シンガポール 約12,000km、12ペア、約290 Tbpsへ増強と報じられる。NTT、Chunghwa Telecom、PLDT、Google、Meta Submarine Networks
APCN-2 / EAC-C2C 等(既存世代) 志摩、千倉、阿字ヶ浦、沖縄 等 韓国、中国、台湾、香港、フィリピン、シンガポール、マレーシア 2000年代のリング型域内網。EAC-C2Cは総延長36,800km・17陸揚局とされる EAC-C2C
Candle(計画、2028年) 日本 台湾、フィリピン、インドネシア、マレーシア、シンガポール Meta主導、24ペア、570 Tbpsと発表される次世代域内幹線

豪州・南方面

システム 日本側 接続先 備考
JGA (Japan-Guam-Australia) 南房総(千葉) グアム(接続点)、豪州シドニー&サンシャインコースト 約9,500km、36 Tbps超。JGA-SouthはGoogle、AARNet、RTIのコンソーシアム、JGA-NorthはRTIのプライベート。供給:ASN+NEC。グアムでSEA-US(グアム―ハワイ―米国)等に接続し、南北軸と東西軸が交わる JGA建設開始

構図の読み方: 日本は単なる「終端」ではない。北米―アジアの最短経路(大圏コース)上にあり、太平洋横断ケーブルとアジア域内ケーブルが交差するハブである。グアムも同じ理由で交差点になる。だから日本でケーブルが集中して切れると、日本国内だけでなくアジア―北米の通過トラフィックにも影響しうる。


4. ケーブルが切れると何が起きるか — 障害事例と復旧

4-1. まず頻度と原因

4-2. 修理はどうやるか(修復船の手順)

KDDIの自社証言と一般的手順は一致する KDDI(verified live):

  1. 障害点の特定: 陸揚局から光パルスを送るOTDR測定等で、断線までの距離を割り出す。給電異常からは電気的な位置も推定できる。
  2. 船の手配と回航: 世界の海域は保守ゾーンに分かれ、ゾーンごとに修理船と優先順位が事前に決められている。それでも船が近くにいなければ回航だけで数日〜数週間かかる。修理船は世界でも数十隻規模しかない(「20数隻」「60〜80隻」など数え方で幅がある。専任の修理船か、敷設兼用を含むかで変わる)。
  3. 引き揚げ: 浅海ではROV(遠隔操作ロボット)がケーブルを掴む/切る。深海ではグラップネル(鉤)をワイヤーで下ろし、海底を引きずってケーブルを引っ掛ける。19世紀の電信ケーブル修理と原理は同じである。KDDIの東日本大震災事例では、水深6,200m級の回収、土砂に埋まったケーブルを切らないよう毎分約3mで巻き上げて19時間かかった例が報じられる。
  4. 船上接続(スプライス): 損傷部を切り落とし、健全な両端を確認し、予備ケーブルを間に挿入して光ファイバーを1本ずつ融着接続する。揺れる船上で髪の毛より細いガラスをつなぐ手作業であり、1カ所で通常7〜10日(KDDI証言)かかる。
  5. 再敷設・埋設: つないだケーブルを海底に戻し、浅海ではROVやプラウで埋設し直す。試験して復旧。

所要時間の目安は、浅海で数日、深海で1〜3週間が「1カ所・船がすぐ来れば」の話。許可取得、悪天候、船の空き待ち、紛争海域が入ると月単位になる(紅海の例)。

4-3. 実際の障害事例

事例 原因 規模 復旧 教訓
2006年12月 恒春地震(台湾沖) 地震→海底地すべり/混濁流が330km超を流れ下る 9ケーブルに21障害。中国、香港、ベトナム、台湾、シンガポール、日本、フィリピン間の通信が深刻に阻害、銀行・航空予約・メールが停止/遅延 修理船11隻で49日。一部遅延は2カ月後も残ったとICPC/ITU資料が伝える ICPC発表を引くKentik、ITU資料 地震は1本ずつ切らない。地すべりが時間差で次々と切る(震源から110kmで約4時間後、173kmで約9時間後)
2011年3月 東日本大震災 地震・津波・海底土砂崩れ 千葉・茨城沖で20カ所以上断絶(KDDI)。他報道では「太平洋横断12本中7本が翌朝までに切断判明」とも KDDIオーシャンリンク単独に近い形で開始(原発事故の影響で他船が近海に来なかったと報じられる)。復旧作業150日超、帰港は8月6日。通常1カ所7〜10日が、埋没と交差の多さでさらに長期化 KDDI(verified live) 日本のユーザーの多くが「ネットは使えた」と感じたのは、残存ケーブルと迂回で致命傷を免れたため。裏側は危機的だった。以後のFASTERは千倉から一旦南下するルートと千倉+志摩分散、高台陸揚局で設計された
2022年1月 トンガ海底火山噴火 噴火に伴う海底の密度流・地すべり トンガ―フィジー間唯一の国際ケーブルが約80〜92kmにわたり損傷。国内ケーブルも損傷 38日間、完全なインターネット接続なし(衛星の限定的接続のみ)。修理船Relianceが20日かけて92kmを交換し2月22日復旧。国内離島ケーブルの完全復旧はさらに数カ月〜1年規模と報じられた Cloudflare Blog 「1本依存」の島嶼国では冗長性が存在しない。衛星は命綱にはなっても代替にはならない実例
2023年2月 台湾・馬祖列島 中国漁船(2月2日)と中国貨物船(2月8日)による損傷と台湾当局が発表 台湾本島―馬祖の2本とも切断、住民約14,000人がほぼオフライン。バックアップはマイクロ波(当時2Gbps) 1本の復旧に約50日(3月末)と台湾のレジリエンス報告が整理。修理船の到着は4月20日以降と当初報じられた Straits Times / AP 台湾国家通信委員会は「故意の証拠はない」とした(第5節)。過去5年で27回切れたという頻度自体が安全保障論点になった
2024年2-3月 紅海 フーシ派のミサイルで被弾した貨物船Rubymarが漂流し、錨を引きずったことが有力な原因と米政府等が結論 AAE-1、EIG、SEACOM/TGN-Eurasia の3本が損傷。欧州―アジア間トラフィックの約25%に影響したという推計が報じられた(推計値であり実測ではない) 許可と安全の問題で遅れ、AAE-1の復旧は7月中旬(約4.5〜5カ月後)、全体では約6カ月とTeleGeographyが整理したと報じられる Arena(経緯の整理) 切断そのものより「紛争海域では修理に行けない」ことが長期化の主因になる
2024年3月 西アフリカ沖 海底の岩盤崩落/地すべりが疑われる ACE、SAT-3、WACS、MainOne の4本が同時オフライン、13カ国で劣化〜ほぼ全断(コートジボワール等) SAT-3は4月初旬、MainOneは5月中旬の復旧見通しと当初報じられた 大陸の西岸という単一コリドーへの集中が露呈した

4-4. 「気づかないケース」と「大規模障害になるケース」の違い

気づかない条件(通常の1本障害):

大規模障害になる条件:

  1. 同時多発: 地震・地すべりのように同一海域の複数本をまとめて切る場合。迂回先も同時に失われる
  2. チョークポイント集中: 紅海/バブ・エル・マンデブ、ルソン海峡、スエズ、馬祖周辺のように、多数のケーブルが狭い海域を共有する場合
  3. 単一・少数依存: トンガや馬祖のように国際接続が1〜2本しかない島嶼
  4. 陸揚げ集中: ケーブルは無事でも陸揚局側(房総・志摩)が被災/攻撃されれば同じ結果になる。これが日本の総務省報告書の懸念である
  5. 迂回先の輻輳(カスケード): テラビット級のトラフィックが細い迂回路に雪崩れ込み、健全だった経路まで落とす。冗長性は「予備が1本ある」ではなく「迂回しても容量が足りる」まで設計して初めて冗長である
  6. 修理の遅延要因: 修理船不足、許可、紛争、悪天候。物理復旧日数と体感の障害期間は別であり、迂回でサービスが戻っても、**冗長性を失ったまま数カ月運用する「静かな危機」**が残る

5. 安全保障・地政学 — 事実と推測を分けて

5-1. 確認できる事実(文書・司法・公式発表があるもの)

A. 米国の規制による中国排除

B. 供給者(造る側)の寡占と中国の位置

C. バルト海の一連の損傷(損傷は事実、故意は未確定) 時系列はReuters系タイムラインで確認できる gCaptain / Reuters Timeline:

これを受けてNATOはバルト海での哨戒(Baltic Sentry)を強化し、EUは2025年2月にケーブル安全保障の行動計画を出した。「警戒を強めた」ことは事実だが、それは「攻撃が立証された」こととイコールではない。

D. 日本の政策(2025-2026年)

E. 台湾をめぐる懸念

5-2. 推測・主張の域を出ないもの(事実として書かない)

5-3. ルール側の土台

海底ケーブルの敷設・保護は国連海洋法条約(UNCLOS)が土台で、公海・EEZでの敷設の自由(58条、87条、112〜115条等)と、故意・過失による損傷を国内法で犯罪とする義務(113条)が定められる。ただし領海内では沿岸国の主権が強く、修理の許可が遅れる要因にもなる。1884年パリ条約以来の古い枠組みを現代化すべきという議論が、英国の2026年白書(損傷への罰則強化案)など各国で進んでいる。


6. 誰がケーブルを持っているのか — コンソーシアムから巨大テックへ

6-1. 旧モデル:通信会社コンソーシアム

6-2. 新モデル:ハイパースケーラーが需要家から所有者へ

指標 数字 出典・注記
コンテンツ事業者の使用容量シェア 2012年以前 10%未満 → 2020年 66% TeleGeography、2021年地図発表 Computer Weekly
ハイパースケーラー4社の国際帯域使用シェア(近年) 約71〜75% 複数の近年の要約が TeleGeography を引いて71%(lit capacity)/約75%(used bandwidth)とし、時点と定義で幅がある Mappr(TeleGeography集計の要約)、XenoSpectrum
大西洋横断での4社シェア 約84〜90% 資料により84%(capacity demand)〜約90%(capacity)と幅がある。太平洋横断は約78〜80%超とされる
Googleの持分参加システム数 33〜34システム 集計年により33/34と変動 Mappr
Metaの持分参加システム数 19〜20システム(一部資料では16既存+新規) 同上。数え方(運用中のみ/計画含む)で変わる
Microsoft+Amazon 合わせて 約10システムに持分参加と要約される。Amazonは単独所有の大西洋横断Fastnetを発表、Microsoftは単独所有より容量購入・共同投資が中心とされる 同上

代表的プロジェクト:

6-3. なぜテック企業が「借りる」から「持つ」に変わったのか

  1. 自分たちが最大の需要家になった。 データセンター間通信、クラウドのリージョン間同期、動画配信、AI学習データの移動が、通信会社の音声・企業回線需要を桁で上回った。借りる容量の単価より、造って持つ方が安くなる規模に達した。
  2. ルートと冗長性を自分で決めたい。 どの陸揚局に上げ、どのチョークポイントを避けるかは、サービスの可用性そのものになった。
  3. 技術要求を供給者に押し込める。 SDM、WSS(波長選択スイッチ)、オープンケーブル(端局を所有者が自由に選べる方式)といった仕様は、ハイパースケーラーの要求で商用化が加速した。

6-4. では「インターネットは4社に握られた」のか — 留保


Could not verify / 留意点


Sources

一次・公的・事業者(verified live と明記したものは調査窓で本文を確認)

業界データ・専門資料

障害・地政学の報道/分析